『どげしてこんな島に来た?』と呆れる住民がいる。『まあ、のんびりやんなさい』と老人が声をかけてくれる。海のサムライ(=漁師)になるべく、日本海の離島に移り住んで半月ほど経ったが、仕事の後の風呂がなによりも有難く、食事がこのうえなく美味しいのは、自然を相手の充実感からだろうか。
信号も、コンビニエンス・ストアも、図書館もない。もちろん、レンタルDVDもない。ノイズが無いのが心地よい。なにも無い島だけれど、「全てがあるマンハッタン」と同じ魅力がこの島にはある。いまの私には、人口2,500人の海士(あま)も、160万人のマンハッタンも、なんら変わらない。偶然だけれど、それぞれの島の面積はほぼ同じ(3,500ha)だ。
ニュースはラジオとネットで充分。
情報というものは、普通の生活のなかで自然に耳に入ってくるくらいが丁度良い。要は、シグナルとノイズを峻別し、どれだけSN比を高められるかということである。
おそらく昨今のマスメディアは、企業による不祥事がエスカレートしているかのように報じているだろうが、現在の状況は「消費者基本法(改正消費者保護基本法)」を成立させた3年前に既に始まっている。
企業寄りだった行政をフェアな立場にシフトしたことにより、いままでの矛盾や膿が出てきているに過ぎない。ようやく民主的な消費環境が整ってきた証拠でもある。いまごろ右往左往している企業や消費者、そしてマスメディアは、腐臭の空気を読むことばかり躍起となり、風を読めていないようだ。
私は新しいもの、面白いもの好きが高じて広告の世界に入り、そしてニューヨークに移り住んだ訳だが、「自然」ほど新しく面白いものはないということにこの歳になってようやく気が付き、手垢の付いていない自然のある離島に住むことにした。
今日は、晴れ間と霰(あられ)とが交互に何回も訪れるという面白くもめずらしい天気を楽しんだ。
生活も仕事も毎日が新鮮な驚きである。当面の私の目標は、一日もはやく風の読める漁師として自立し、収穫した魚介類を島のブランドとして出荷することである。
写真:三郎岩