人気ブログランキング | 話題のタグを見る

#103:ON THE AIR

ontheair-s.jpg
TVコマーシャルや販売促進といった仕事の経験を経て、第一次産業に携ることで、つねに意識したいのは「空気」である。

思い起こせば1991年。
2年後の「地ビール解禁」を見据え、日本のK社から全米にあるマイクロ・ブルワリーの視察調査依頼を受けた。当時、ニューヨークの会社でアシスタントだったマーティに取材先の資料作りを頼むと、彼女はおもむろにマッキントッシュSEの前に座り、全米中のマイクロ・ブルワリーを調べ、アッという間に完ぺきな取材リストを作ってくれた。

彼女は「ネット・サーフィン」をしたのである。

初めてインターネットの素晴らしさを垣間見たとき、私は『こんなものを生み出す米国に日本が敵うわけがない』と思ったものだ。

既に米国では、マイクロ・ブルワリーやブルーパブが注目を集めていた。ビジネスマンや弁護士などを辞め、ベンチャー・スピリットを持って独立した醸造家たちは、みな自慢のビールをウェブサイトに載せて情報発信していた。フレンドリーな彼らは、我々の取材を快く受け入れ、米国の西から東まで新鮮で美味しいビールを飲み歩くという贅沢で楽しい旅を経験することができた。

取材先で思い出に残るのが、ボストン郊外にある「イップスイッチ・ブルワリー」のポールさんの言葉だ。『ビールは旅をしてはいけない。作られたその土地で飲むのが正しい』と。旅(流通)をさせるためにケミカル処理を施すことで、そのビール本来の美味しさを失ってしまうからだ。

彼らがつくるビールは「クラフト・ビアー」とも呼ばれ、広く流通しているコマーシャル・ビールよりワンランク上と位置づけられている。彼らは自慢のビールをほかの人にも飲んで貰いたいから造るという、ごくあたりまえの酒文化・食文化に根ざしている。ポールさんは、『その土地の空気と一緒に飲んでこそビールは美味しいのだ』とも言っていた。

その土地で造った空気と一緒に味わう。

なかなかいい言葉だと思った。
私がいま育てている岩牡蠣は、旅をしないわけにはいかないが、「殻」という完ぺきなパッケージに包まれたまま、自然な状態で市場に出荷することができる。だから消費者の食卓には、牡蠣といっしょにこちらの空気も一緒に届けることが出来たら素晴らしいと思うのだ。
by clairvoyant1000 | 2008-01-06 09:14 | 8)文化とcalture


<< #104:トースターの80年 #102:主役は要らない >>