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インとアウト

39年におよぶ米国のトールフリー(フリーダイヤル)の歴史は、いつでもどこからでも利用できる便利な環境をもたらしてくれた。Eメールがこれだけ普及しても、トールフリーは消費者の生活に欠かせないサービスとなっている。何故なら、リアル店舗を意味する「ブリック」と、オンラインの「クリック」そして、それらを補完する電話の「コール」が加わって、初めてEコマースにおけるコミュニケーションのインフラが整ったと米国では言われるからだ。



ここでいうコールとはトールフリーを指し、もちろん携帯電話からでも利用可能だ。ウェッブ・サイトでは、1、2回クリックすればその企業のトールフリー・ナンバーを簡単に見つけることができ、様々なメディアには電話番号を覚えやすくロゴナンバーで表示されている。このように、消費者がその場の状況に応じた手段で企業へコンタクトできるようになっていることも、米国のEコマース市場を発展させてきた要因と言えるだろう。カタログ文化の歴史が長い米国では、ウェッブ・ポータルができる以前に、「ボイス・ポータル」が整っていたという土壌があるからこそ、こんにちのCRMやインターネットによるサービスが充実しているのである。
 
この便利なトールフリーの恩恵に浴している消費者は、企業からのセールス電話、つまり「アウトバウンド・コール」も受け入れなくてはならなかった。それが常にフェアということを重んじる米国の基本的なルールだからに他ならない。しかし、テレマーケターからの執拗な電話攻勢は年々エスカレートし、悪徳販売業者による詐欺事件が社会問題にまで発展してきたため、法律によってテレマーケティングの規制を強化する動きが加速した。
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1991年に「電話消費者保護法」が制定され、1996年には「電話販売法」が施行された。そして2003年、ニューヨーク州などで「Do Not Call法」が施行され、FTC(連邦商業委員会)でも、厳格なテレマーケティング規則を定め効果も上がっている。これらの規制が業界の行く手をはばむ大きな障壁となっていることも確かで、ATA(米国テレマーケティング協会)など業界側は「健全な会社まで悪徳販売業者に見られてしまう」と、自主規制ガイドラインの制定や会員各社への教育にも注力している。

手元の資料によると、米国には約14万社の電話による販売業者があり、2002年は2億9530万ドルを売り上げたが、業者のうち10%は詐欺を目的に行っており、被害総額は毎年400億ドルにも上るという。割合で見ると6人に1人は電話による押し売り被害に遭っているという計算だ。テレマーケターは、対企業、対個人を含めて、毎日1億400万回の電話をかけているが、悪徳販売業者は「Mooch List」(ムーチ・リスト)と呼ばれる「最もカモにし易い顧客」の名簿をもとに、コールセンターとは名ばかりで机と電話だけの、通称「ボイラー・ルーム」から、巧みな話術で消費者にアプローチしているのだ。消費者は電話会社が提供するテレマーケターの撃退サービスなどで対抗しても、通話排除を阻止する手法が編み出されるなど、常に悪徳業者との「イタチごっこ」というのが現状だ。しかし、インとアウトが表裏一体であるという意味において、私はこの現象は健全だと思う。

米国企業がトールフリーの受け入れ体制をここまで整えていなければ、消費者の不満は爆発し問題はもっと大きくなっていたに違いない。当たり前だが、トールフリーは「いつでも」「どこでも」「どんな電話からでも」かけられる環境がベストである。日本において、BtoCのアウトバウンド市場を拡大させるためには、先ず企業側によるフリーダイヤル整備の改善から始めなければならない。それを阻んでいるのは、寡占化したテレコム市場で高止まりしているフリーダイヤルの電話料金にあると私は考えている。

「官から民」が合言葉のような昨今だが、真の民営化というものは、フェアな環境からうまれるものであり、そのためには寡占市場を壊すところから始まるのではないだろうか。(2年前に専門誌に掲載されたコラムをアップデートしました)
by clairvoyant1000 | 2004-08-14 13:49 | 6)ロゴナンバー


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