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#98:ディズニフィケーション

1994年、ディズニーによる「美女と野獣」のブロードウェー進出と、ジュリアーニ市長(当時)によるタイムズスクエアの大規模な再開発は無関係ではなかったはずだ。

皮肉を込めて呼ばれる「ジェントリフィケーション」によって、タイムズスクエア界隈のポルノショップやストリップ小屋などはほとんど姿を消し、代わりにミラーガラスの高層ビルディングがいくつも建ち並んだ。

たしかに街は洗練され、子ども連れでも安心して訪れることができるようになった。怪しげな男たちや娼婦もどこかに消え、観光客の評価も高まった。しかし、『なんだかつまらなくなった』というニューヨーカーは多い。

いかがわしいもの、汚いものをどんどん捨てていくニューヨークは、本来の魅力すらも捨ててるようだ。大金持ちもホームレスも、犯罪者もポリスマンも、ブラックもホワイトもイエローもこの街では「あらゆる人間」が同じストリートですれ違うから面白いはずなのに、彼らの「生息地」が失われて行く気がした。

タイムズスクエア界隈におけるジェントリフィケーションは、「ディズ二フィケーション」とも呼ばれている。

#98:ディズニフィケーション_a0003694_21295414.jpg先日のブロードウェー舞台作業員組合によるストライキも、この「ディズ二ー化」の影響を受けたことに端を発し、結果、今後のブロードウェーのショウ・ビジネスの在り方も問われている。というのも、ブロードウェーではこれまで舞台スタッフの雇用について、人数や時間の細かな規定を組合が管理していた。

しかし、ディズニーのブロードウェー進出をきっかけに、「古き良きミュージカル」から、最新のテクノロジーを駆使した「ショウ」へとシフトしたのだ。その結果、高価な舞台装置にかかる費用を賄うために人件費を見直し、柔軟な契約を求める動きが制作者側に広がった。(待遇面についての明確な方針は未解決)

ブロードウェーも『古き良きもの』から発展的に脱却するのだろうけれど、マンハッタンの『古き良き』カオス的な街の魅力は失われないでほしいと思う。

ジェントリフィケーション(gentrification)例
1960年代~1970年代:ソーホーには廃業した繊維・衣服工場や倉庫など、19世紀末に建てられたキャストアイアン建築が多く空いており、安い賃料、高い天井、窓が大きく明るい中で作品制作ができるため、芸術家やデザイナーたちのロフトやアトリエに転換された。さらに、彼らの集うレストランやギャラリー、ライブハウスができた。

1980年代:
高感度な地区としてヤッピーたちや観光客が集まるようになり、のどかな雰囲気は急速に失われていく。

1990年代:ヤッピーや観光客相手の超高級レストランや高級ブランドの路面店が進出してくると、街はにぎやかになる一方喧騒がひどくなり、落ち着いて仕事や美術鑑賞のできる雰囲気ではなくなり、さらに地価が急騰。やがて芸術家たちもギャラリーも、古くからの住民たちも、家賃が払えず他の地区に出ざるを得なくなった。

2000年代:ギャラリー街は主にチェルシー地区へ、芸術家やデザイナーらはマンハッタンを離れ、ブルックリンに移りつつある。

現在:ソーホーに芸術家はほとんど住んでおらず、ハリウッドスターや金持ちのアパートとして改装され、彼ら相手のギャラリーやブティック、高級レストランなとど、ミッドタウンとなんら変わらない個性のない街と化した。

by clairvoyant1000 | 2007-12-09 21:08


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