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#137:その日暮しの手帖

出版社から郵送されてきた雑誌を封筒から取り出しながら、夏に受けた取材のことを思い出した。

#137:その日暮しの手帖_a0003694_7434743.jpgこの島には、マスメディアからの取材が結構来るのだけれど、私個人への取材や撮影は断っていた。なにも勿体ぶっている訳ではなく、彼らの上澄みすくいの企画意図に応じる筋合いはないと思っているからだ。

しかし、瀬戸山氏(ドキュメンタリスト)の「世のなか食のなか」という企画は気に入ったし、写真取材くらいなら受けてもいいと思った。掲載は、あの名物編集長の故花森安治氏の雑誌「暮しの手帖」である。

さっそく最新号(36号)をめくってみると、どのページも丁寧にていねいに制作されている。巷に溢れている雑誌にありがちなポピュリズム的なるいやらしさが無い。なぜか?
それは、広告というノイズが一切無く、雑誌の隅々にいたるまで、コンセプトが一環しているからだ。

この雑誌が広告を載せないことに関しては、商品テストを特集する際、フェアに行うためと理解されているようだが、じつは違う。

ちょっと調べてみると、創刊当初から編集長の花森氏が自ら誌面のすべてに神経を配ったレイアウトを施しているので、広告によってそれを台無しにされたくないという理由が最初にあったそうだ。

広告収入に頼らず今年で60周年というロングセラーを続けているのは、花森氏の徹底した美意識がいまも健在だからである。

戦中/戦後と、広告の仕事に携わっていた彼が、後に広告を排除した雑誌を編集するという経緯はとても理解できる。おそらく、広告主と制作者とのフェアな関係を築きにくい日本の業界において、天才の居場所はなかったのだろう。

この雑誌のマニフェストである「見よぼくら一銭五厘の旗」は、戦後に書かれたにもかかわらず、私が常々考えていたことを語っている気がする。僭越ながら。
by clairvoyant1000 | 2008-09-27 20:46 | 8)文化とcalture


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