地下鉄の駅と駅をつなぐ長い通路は殺風景なもの。
そんな通路の利用者にアプローチすべく、旅行会社は青い空と海の写真で南国の島へと誘い、装飾品メーカーは、魅力的なモデルの視線でブランドを印象付ける。どれも、懲った広告ではあるが、歩行速度まで計算に入れて考えてはいないだろう。
毎日利用する通勤客であれば、立ち止まることなどまずないし、まして、1枚だけでは他の広告に埋もれてしまうだろう。かといって、ひとつのクライアントの広告予算でそう何種類の広告を作るわけにもいかない。
マンハッタンの地下鉄で多く見かけるのは、一種の「サブリミナル広告」とも言える手法だ。TVでは禁止されているが、グラフィックでは当然問題ない。
例えばビールのラベルを部分的にアップにして3組をワンセットで並べる。読ませるほどの余計なコピーはなく、あるのはラベルとボトルのシズルだけである。
一枚として全体像を見せるものはないから余計にどこのビールか気になるし、ビール好きであれば「アムステル・ライト」だと次第に分かってくる。
通路の最初から最後まで数えると合計で15枚ほどだが、歩きながら横目でチラチラ見るだけでも、ラベルの印象が強く残り、
アムステル・ライトのことが頭から離れなくなるはず。
そして恐らく、家路に着く前に近所の酒屋に寄って購入してしまうだろう。(2006年5月12日)